第1回 なぜ測るか——止まりやすさの現在地を、月次で
CSIの方法(全7回)
2023年7月以降、中国による重要鉱物の輸出管理措置は、7件を数えます(2026年7月時点)。ガリウム・ゲルマニウムの許可制(2023年7月公告・8月施行)、黒鉛(同年10月公告・12月施行)、アンチモン(2024年8月公告・9月施行)、対米輸出禁止(同年12月・即日)、タングステン等5鉱種(2025年2月・即日)、磁石・中重希土(同年4月・即日)、そして2026年2月の対日措置(即日)。すべて公告一本で定まり、うち4件は即日発効でした。公告の間隔は、最短で2ヶ月でした。
本稿から始まる「CSIの方法」(全7回)は、重要鉱物のチョークポイント依存度——一つの法域の判断で供給が止まりやすい状態にあるかの度合い——を毎月測る指数、CSI(Chokepoint Share Index)の方法論を開示するものです。第1回は、そもそもなぜ測るのかから始めます。
戦略の前提が、動く時代に
企業の戦略は長いあいだ、「何を作るか」「どこで戦うか」「どう勝つか」を問うてきました。その全てに共通する暗黙の前提が一つあります——作り続けられること。原料が入り、工程が回り、製品が出ていく。供給の継続性は、戦略の変数ではなく与件——固定してよい条件——として扱われてきました。安定した貿易の時代には、それが合理的でした。
冒頭の7件が示すのは、この与件が与件でなくなった、ということです。公告一本・即日発効で、供給の前提そのものが動く。前提が動きうるなら、経営に新しい仕事が一つ加わります——前提そのものを、管理対象に置くこと。供給の集中という構造を平時から計測し、判断の前提として記録し、変化を意思決定に接続する。戦略を選ぶ前に、その前提を測る、と言い換えてもかまいません。
制度は先にそちらへ動いています。経済安全保障推進法は重要鉱物を特定重要物資に指定し(2022年12月)、有価証券報告書はサステナビリティ開示の中でリスク管理体制の記載を求め、取引先のBCP・調達調査は供給の途絶を平時から問うものです。供給の継続性は、調達部門の実務であると同時に、経営が説明を負う事項になりました。
では、「前提の管理」には、何が必要なのか。
前提の管理には、月次の現在地が要る
管理とは、状態を把握し、変化に応じて構えを更新することです。供給の前提で言えば、把握すべき状態は止まりやすさ——一つの法域の判断で、供給が止まりうるか——であり、その現在地が要ります。
頻度は、脅威の速度が決めます。輸出管理の公告は即日で発効し、主要な措置の間隔は、最短で2ヶ月でした。年に一度の把握では、管理になりません。そして稟議は、数字を要求します——事件が無い月にも、根拠として引ける定点。要件はこう定まります: 止まりやすさの現在地を、月次で。
現在地は、形と、政策の事実でできている
止まりやすさは、二つの要素で決まります。形——供給の連鎖が、どれほど一つの法域に集中しているか。そして政策の事実——それを止める制度(輸出管理の公告)が、どの段まで立っているか。止め得る点は、工程の細さとしても、許可の蛇口としても現れます。したがって現在地は、形と、政策の事実——二つの合成です。なぜこの二つなのか、どう一本に束ねるのか——その解剖は、第3回「二層評価」で示します。
その計器が、CSIです
この現在地を月次で示す情報は、これまで存在しませんでした。報道は事件駆動で、年次の公的統計は年1回——措置の間隔より遅く、月次の貿易統計が写すのは、流れた量です。CSIは、この欠落を埋めるための指数です——10物資について、毎月一つの値を公表する。私たちはこれを、計器とも呼びます。論評ではなく、計測の器であるという、立場の呼び名です。フローの統計——日本の貿易統計(申告の全数記録で、毎月更新される、事実上唯一の月次一次資料)と、最上流の生産統計——から形を実測し、公告という公的事実から政策の事実を強さの段として写し取り、あらかじめ固定した割合で一本に束ねる。10物資のチョークポイント依存度——0〜100・危険度4区分——が、毎月出ます。次がいつ、どの物資かは予測できません。私たちも予測しません。しかし「いま、どこが一国の判断で止まりやすい状態にあるか」なら、毎月計測できます。
予測ではなく、計測を。動いた月も、動かなかった月も、同じ日に同じ形式で。それがこの指数の立場です。
全7回の地図
第2回「チョークポイント依存度とは何か(前編)」(形の項目——定義・段階分解・合成則)/第3回「チョークポイント依存度とは何か(後編)——二層評価」(形と、政策の事実)/第4回「4区分と遷移」(規程に書ける信号)/第5回「▽と改定」(誇張しない計器の作法)/第6回「使い方と範囲」(6つの信号と、やらないこと)/第7回「差込み」(既存の型のどの欄に入るか)。方法はすべてここで開示します。数字を疑うために必要な情報を、数字と同じ場所に置くこと——それがこの計器の設計思想であるためです。
出所: 各国公告(公開情報)・財務省貿易統計(e-Stat・全数データ)より当研究所整理・算出。 マガジン「CSIの方法」索引: [URL] / 月報(無料版): [URL] / 次回→ 第2回「チョークポイント依存度とは何か」
